日本がイギリスを好きな事は知っていた。
イギリスも、日本を好きな事も知っていた。
そして俺も、日本に恋をしていた。
日本を好きになって、日本が欲しいと思った。
日英同盟の更新を阻止したのは俺だ。色々と理由はあるが、本当は日本とイギリスが親密になっていくのに耐えられなかった。イギリスだけに向けられる笑顔を、俺にも見せて欲しかった。隣にいるのが自分であって欲しいと思った。
だから・・・全力で奪った。
心も・・・そうだと思ってたんだ。
戦争が終わり、念願叶って、日本は俺の支配下に置かれる事になった。
喜び勇んで日本の元へ行くと、そこには変わり果てた日本が横たわっていた。
「な・・んで・・・」
俺の第一声は、歓喜ではなく絶望だった。
どうして・・・。戦争で付いた傷だって良くなり始めて、もう十分動ける身体なはずだ。なのに、何故日本はこんな姿なんだ?
「日本・・・俺だよ・・・アメリカだぞ・・・」
光がない瞳が、俺ではなく天井を映している。
「聞こえているかい?日本・・・」
冷たい頬。
涙が零れた。こんなに酷いとは思ってもいなかったから・・・。
「・・・さん・・・」
「何だい?!日本?!」
口がかすかに動いた。必死に呼びかけ、身体を揺すると再び口を開いてくれた。
「イギ・・リスさん・・・」
「・・・っ」
イギリス・・・。そう日本は言った。
「日本・・・」
震える声で、日本を呼ぶ。
「そこにいたんですね・・・イギリスさん・・・」
意識がまだ完全ではないのか、目はうつろなままそれでも必死に手を伸ばし、俺の頬に触れる。ひんやりと冷たい手。
求めているのはイギリス・・・。
わかっていた。わかっていたけど・・・・。
「君は残酷だな・・・日本・・・」
日本の手を取り呟く。本当に、君は残酷だ・・・。
「あたたかい・・・」
そのまま日本は眠りについた。今度はいつ目を覚ますのか・・・。
いっそ目を覚まさなければ・・・いや、日本をこうしてしまったのは俺だ。俺の我侭で日本をこんな風にしてしまったんだ。
「待ってろ日本。すぐ・・・呼んでやるから・・・」
俺ではきっと日本を救ってはあげられない。
受話器を取り、イギリスの元へと電話をかける。
せめて・・・せめて日本の心が救われるのならば・・・。
それから・・・。
「日本。身体の調子はどうだい?」
「はい。もう大丈夫です。ご心配をおかけしました」
日本は再び光を取り戻した。あの後、イギリスが日本を見舞った。
今日は日本が俺の手を離れる日。と言っても、俺の手からはまだ完全には離れる事はないが、少しでも自由にと俺が提案した。日本もそれを喜び、受け入れてくれた。
そして、もう一つ・・・。
これは俺からの餞別。
「日本、先に入っていてくれないか?用が終わったら俺もすぐ向かうから」
扉の先にはイギリスが待っている。
「ええ。かまいませんよ」
「じゃ、ちょっと行って来るぞ」
「はい。行ってらっしゃい」
この場を離れれば、きっと俺の手の届かない所に君は行ってしまう。
暖かい水が、俺の頬を伝った。
大丈夫。
君が幸せならばいいんだ。
これは、最後の涙。君を好きでいた最後の涙。
もどったらいつもの通り君に笑いかけるから・・・。