日本が酷く傷ついていると聞かされた。
戦争後敗戦をし、アメリカの支配下に置かれ精神的に参っている状態。今は隔離病棟で治療中だという。
そしてその直後、アメリカから一本の電話が入った。
~日本が、大変なんだ・・・。目を覚ましたんだけど、ずっと反応がない・・・。俺が話しかけても、ダメだったんだ。・・・身体の方は俺の設備で何とかなるけど、メンタル面は相当ダメージが大きい・・・もしかしたら・・・日本は・・・~
ここまでだとは思ってもいなかった。こんなに傷つき、苦しんでいるなんて・・・。
~イギリス・・・君の名を呼んでいたよ・・・~
日本・・・・・。
その瞬間、頭が真っ白になった俺は、何も持たず家を飛び出していた。
無我夢中で日本のいる病院へと向かった。
一分一秒でも早く会いたかった・・・ただそれだけだった・・・。
着いて早々面会謝絶だと言われたが、ムリを言って15分だけ会うことを許された。
軽くノックをし、返事がない事を確認した後、ゆっくり扉を開ける。
「日本・・・?」
隔離病棟。真っ白の部屋に日本は寝かされていた。
同盟破棄後、俺達は敵同士になった。日本にもう一度会って話をしたいと思った矢先に起こった戦争で、日本との溝がさらに深くなり会うことさえ許されなくなった。
あんなに会いたいと思っていた日本に、こんな形で再会するなんて・・・。
あの時より少しやつれたか・・・。
「日本・・・」
目を開けているのに俺を見てはくれない。じっと天井を見つめ、時折瞬きをする程度。想像していた以上にダメージを受けている事に、握りしめていた手が震えた。
「早く目を覚ませ・・・お前に聞きたい事が山ほどあるんだからな・・・」
艶のある漆黒の髪を手で掬うと、キラキラと日を浴びて光りながら俺の手をすり抜けていく。
「お前に、言わなくてはならない事も・・・」
最後に会った時に、言おうと思っていた言葉。
“お前が好きだ”・・・と。
「早く・・・」
「・・・スさん・・・」
「日本・・・」
「イギ・・スさん」
こんなに傷ついても、俺を呼んでくれる日本を心から愛しいと思った。
「ごめんなさい・・・ごめんなさ・・・」
「謝るのはおれの方だ。お前を守ってやれなかった」
「イギリスさん・・・ごめんなさい・・・」
「・・・離れていた分、お前に話したい事がたくさんある。お前が立ち直るのなら何でもしよう。だから・・・戻ってこい」
光のない、傷ついた瞳がかすかに揺れた気がした。返事はないが、きっと時間が解決してくれる。日本のこれからの発展を近くで見守ることはできないのが心残りだが、日本に再び会う日が来たら精一杯の事をしてやろう。
「そろそろ時間か。それじゃあ・・・俺は行くよ」
ゆっくりと手を離す。その瞬間、ぎゅっと日本がおれの手をつかんだ。
「日本?!」
「また・・・会えますか?・・・また・・・あいたい・・・あいたいです」
「あぁ・・・。お前が望むならいつでも会いに行く。お前の為なら何でもしてやる」
「・・・いぎりす・・さん・・会いたいです・・・あいたいです・・・」
うわごとのように呟き、日本はゆっくり目を閉じた。規則正しい息遣いが聞こえてくる。どうやら眠ってしまったようだ。
「おやすみ・・・日本」
頬にキスを落とし、俺はゆっくり病室を出た。
俺も色々とやらなくてはいけない事がある。日本をサポートできるだけの国にしていかなくては・・・。
それから、ずいぶんと時間が過ぎた。アメリカからの電話で、日本がどうにか持ち直し、今では目まぐるしい成長をとげていると知らされた。
「今度の会議で日本を独立させようと思う。もう充分一人でもやっていけるからな」
「お前の保護下には変わりないだろう?」
「でも、自由は必要だ。日本もいつまでも人の手を借りていたいわけでもないだろうし。君もサポートにまわるんだろう?」
「ああ。もちろんだ」
「何で日本は君みたいな堅物を好いたんだろうなぁ」
「ん?何だ?」
「何でもないよ。とりあえず、明日日本を連れていくから、ドアの前で待っててよ。そうだな・・・開始3時間前ぐらいには着いてるよ」
「随分早いな」
「好都合だろう?」
「お前に借りを作りたくないがな」
「ははっ。それじゃあ・・・明日」
「あぁ」
受話器を置いて小さくため息を吐く。
アメリカ、お前も日本を好きだっただろうに・・・。
だが、知っていても譲る気はない。
ごめんな。
決して口にする事はない謝罪を俺は小さくつぶやいた。
明日、日本は俺に微笑んでくれるだろうか。
止まったままの時間が動き出す事を願い、目を閉じた。