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あなたをずっと慕っていた。それはやがて、恋へと変わる。
気持ちを告げる勇気も、諦める度胸も私には持ち合わせていなかった。

あなたを私のものにできたら・・・。
そんな、叶うことのない願を抱きながらあなたを見ていた。



「菊!!!!!」

そう・・・あの時も。生徒会に反抗する集団からアーサーさんを守りたくて仲裁に入った。しかし、体を押された瞬間私は窓の外に投げ出されていた。強い力に押され、運悪く窓を打ち破ってしまったらしい。

身体が宙に浮かぶ。

「くそっ!!絶対手、離すんじゃねぇぞ!!」
ぐんと手を引かれ、その先にはアーサーさんがいた。
私の命が、彼によって繋がれている。腕から伝わる血、ガラスの破片で手を切ってしまっているのか・・・。
こんな時なのに、冷静にこの状況を理解している。
それもとても傍観的に・・・。
痛みと、重みで手が震えている。
もう、限界かもしれない。
「・・・・だめですよ・・・あなたを道連れにはできません」

「!?」

手を離した瞬間、一瞬の暗闇・・・。
錆びた鉄のような味と、遠のいてゆく意識の中で、私は安堵していた。
叶わない願いなどいらない。
あなたがいつか、ほかの人を好きになり、その人と歩んでいく未来を目の当たりしてしまったら、それこそ自分が自分でなくなるくらい醜い感情が襲うくらいなら、このまま・・・何もわからないまま・・・・。




完全なる闇・・・。




そして、もう一度目を覚ました時、私は何もかも忘れていた。



「俺が誰かわかる?」

「わかりません・・・・」

「菊・・・」

「ごめんなさい・・・」





ここがどこかも、私が誰かもわからない。みな一様に私を菊と呼ぶ。きっとそれが私の名前なのだろう。

「アーサーも何とか言えよ!!」

「悪いアル、少し席外してくれ」

「どうして?!」

「いいから!!」

「・・・わかった・・・」



扉がゆっくり閉まる。

狭い空間に二つの呼吸。それがとても心地よい。



「菊・・・」

「アーサーさん・・・」



伸ばされた手にそっと自分の手を絡ませる。

そう・・・。

私は彼以外の記憶を消し去った。

「どうして、他のやつらの記憶を失くしたんだ・・・?」

「・・・」

「・・・あの時、どうしてあんな事を・・・」

あんなこと・・・?

「どんなこと・・・?」

「菊・・・」

「わかりません」

「悪い。俺の所為だ。もっと早く気づけばこんな事に」

「・・・・」

あぁ・・・。思い出した。校舎の窓から落下したのだ。



「あなたの所為じゃありませんよ」

「・・・」

あなたは知らない。心の中で私を突き落した人に感謝をしているんです。

やっと、この人を縛れた。

罪という縄で。罰という鎖で・・・。

私はこうやって、少しずつ思い出すだろう。眼鏡の彼の事も、心配そうに見つめる友人達の事も・・・。けれど、私はそのたびに頭の中から消去するだろう。この人を繋ぎとめておくために・・・。





~どうして、他のやつらの記憶を失くしたんだ・・・?~

「だって・・・あなたしかいらないですから」

歪んだ私の心。



ずっと、あなたは・・・・わたしの・・・・