ふと見た空に涙がでそうになった…
青すぎる青…
それはあの人を連想させる色…
「もう、帰りますね」
「ああ」
会談終了後、私はアメリカさんの家でしばらくお世話になった。
社交辞令で終わるはずだった。挨拶を交わし、食事をし、模範的な外交に勤めるはずだったのに・・・。
「日本?無理させすぎたかな?」
馴れ合いにはなりたくなかった。
「いいえ。大丈夫です」
馴れ合ってはいけなかった。
「日本…」
しかし、事は起こってしまった。
「・・・・」
それが、自分にとってデメリットになってしまう事とわかっていたはずなのに…。
力なく俯く私をアメリカさんはゆっくりと引き寄せ
「今度は、俺が行くからな」
と笑って見せる。
「ええ。お待ちしていますよ」
この数日間の間で、私は変わってしまった。
「日本。どうした?いつもの君らしくないぞ?」
その声は低く、落ち着いている。
「らしいってどういう事でしょうね・・・」
感情がうまくセーブできない。いつもなら冷静に対処できるはずの事が、この人の前ではうまくできない。
「君の瞳の中には、炎があるみたいだ。強く、真の強い決して消えない炎・・・」
「その炎を揺るがしたのは、あなたですよ・・・」
「うん。俺だけだ・・・俺だけでいいんだよ」
アメリカさんのそばにいると、自分のやるべき目的を忘れてしまいそうで怖かった。抱かれている時は安心感に包まれているのに、現実に引き戻されるたび今まで以上に感じる孤独感。
そばにいたい。
そばにいたい・・・・。
「自分がこんなに弱い人間だとは思いませんでした」
「日本?」
もう、時間だ。
でも、最後に・・・・。
「アメリカさん。今から私、変な事言うと思いますけど・・・忘れてくださいね」
「わかったぞ」
自分を落ち着けるように、一呼吸置いた。
「寂しい・・・。ずっと一緒にいたい離れたくないここにいて私のそばにずっといて欲しいです。寂しい寂しい寂しい寂しいどうしようもなくあなたの事が好きなんです!!」
咳をきったように出た言葉。捨てていかなければきっと私は駄目になる。甘えを振り切ってしまわなければ、立っていられなくなってしまう。
「…」
あなたを、愛しいと思ってしまったから・・・・。
「それじゃあ・・・また」
振り返る事なく、私は部屋から出て行くつもりだった。
「許さない」
その一言で、身体が固まってしまった。固まったままの私を包むかのように暖かいものが、私に覆いかぶさった。
「そんな告白されて、振り返らず帰るなんて・・・許さないよ」
「アメリカさん」
振り返りたい。だけど、ここで振り返るわけにはいかない。
振り返らず、ただ黙ってその場に立っていた。
「君の気持ちだけで、俺の気持ちを聞いてはくれないのかい?」
「あなたの気持は痛いほど・・・」
「いや、わかってないよ。君にあげたのは俺の気持ちの半分もない」
「嘘でしょう?だって、あなたはあんなに」
愛してると言ったのに・・・。
「君が思っている以上に、俺は君の事がすきなんだぞ・・・」
「アメリカさん」
「でも、今はその気持ちを知らなくてもいいかな。君には重すぎる」
「・・・」
「でも、もし君が俺を求めてくれるなら、いつでも来てOKだ」
「・・・あなたは、ずるい」
「ああ。そうしないと、君を縛れない。君は俺を忘れてしまう」
忘れるわけがない・・・。忘れられるわけがない。
「さぁ、行っていいよ」
いままであったぬくもりからの解放。
本当にずるい人・・・。すがりたくなってしまう離し方で、あなたは私を解放するのだ。
「それじゃあ、お邪魔しました」
「ああ」
振り返らず、全力で走った。この気持ちが変わらないうちに…。
でなければ、アメリカさんの胸に飛び込んでしまいそうで怖かった。
まだ大丈夫だ…
まだ私は立ち止まってはいない…
久し振りの外に、日の光が痛いほど突き刺さる。
「空が、高い・・・」
憎憎しいような青空
まるで、あの人を思い出させる
目の覚めるような青