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好きなんて感情、あの人に持ち合わせてなんていなかった。
自分の思う通りに私を動かし、感情のまま私を巻き込んで・・・そんな身勝手で横暴なあの人を好きになるわけがない。

そう思っていた。




「ごっこ遊びだよ。君と俺の暇つぶし・・・。いいでしょ?」
「そんなっ!!」
「拒否権はないよ。今日から君は俺のものだ」

そうだ・・・拒否権なんてない。私は負けたのだ。
それから、どこに行くにも彼についていった。彼がYESなら私も頷き、彼がNOなら私も首を横に振る。
彼が望む事を私はしなくてはいけない。
恋愛ごっこ?そんな生易しいものではない。私の中では苦痛でしかないのだから。

しかし、いつからだろう。私は自然と彼に恋心を抱くようになった。彼と共に過ごす時間の中で、自然と育った本当の恋。
私に向ける彼の表情はとても穏やかだった。そこに、惹かれてしまったのだと思う。

「日本」
優しく名前を呼ばれるだけで胸が高まる。
それと同時に不安も襲ってくる。
いつまで?この時間はいつまで続くのか。
あの人が私に触れるたびに、そんな不安がどんどん大きくなる。
そんな不安を抱えたまま、時間だけが過ぎていくのだ。

もう、限界だ・・・・。

「これは、恋愛ごっこでしょう?」
「どうして?キスぐらいいいだろう?」
ここまでする必要なんてない。過剰なサービスなんて、余計自分を痛めつけるだけ。
「そうだよ?ごっこ遊び」
「ここまでする必要ありません。ごっこ遊びなら・・・こんな・・・」
残酷な事・・・。
「ごっこじゃなきゃいいのかい?」
悪戯な笑み・・・しかし瞳の奥は笑ってはいない。強く私の腕を掴んで、息が届く位置に顔を近づけ耳元で熱く囁く。
それだけで眩暈さえしてしまう。性質の悪いやり方で、あの人は私の心を揺らすのだ。

「ふざけないでください!!」

手を振り払い、2、3後ずさった後、怒りで荒れた息を整える。あの人は怒ることも、驚く事もなく、ただ笑っていた。


「どうしたんだい?君らいくないね」
「あなたの提案に付き合わされるのはもうごめんです!!どうして、こんな…」
こんな、酷い仕打ちをするのですか?そういいたいはずなのに、言葉が詰まる。
「そうかい?それなら、ごっこ遊びも気分がさぞかし悪かっただろうね」
さっきとは違う、低く威圧的な声に、背中に冷たい汗が流れた。
「アメリカさ・・・」
「それなら、逃げてみろよ」
「あ・・・・」
「追わないから、さっさと逃げろ」
冷たい瞳。
「早く逃げないと、捕まえるぞ」
「アメリカさ・・・」
「・・・イライラさせるなよ・・・」
軽く舌打ちをしたかと思うと、強引に腕を引っ張り私の口を塞ぐ。息をしようと自然と開いた口に滑り込むように彼の舌が入ってくる。
「んんっ!!」
突然の事に訳がわからず、口内でうごめく舌を押し出すのに必死だった。
「うまいね・・・他のやつとしたのかい?」
「してませんよ・・・!!」
「逃げないのかい?今度は、これだけじゃ済まないぞ」
この人は、どこまで本気なのだろう。
そして私は何を望んでいるのだろう。

「あなたは・・・私をどうしたいんですか?」

「めちゃくちゃにしたいさ。君を、俺のものにしたい」

「だったら、ごっこじゃなくてもいいでしょう?」

「君は受け入れてくれるのかい?一方通行ならいらない」
器用な人だと思っていた。けれど違っていたのだ。
彼は、とても不器用な人。
「一方通行なら、私はとっくにあなたから逃げていますよ」
「日本」
恋をした。誰でもないあなたに・・・。
そう素直に言えない私も、不器用なのかもしれない。
「お互い、とても似ていますね・・・」
「え?」
「少し、黙ってください」

触れた唇はとても熱く、少し震えているようだった。
「これが、私の答えです」

「ごめん・・・だぞ」
途切れ途切れの謝罪の言葉。手を伸ばし、彼は私をそっと抱き寄せる。胸の鼓動は早く、まるで壊れ物に触る様に優しく抱きしめてくれた。
不器用で優しい人。
「今度は言葉にしてください」
言葉にしてほしい。
欲しいのは、たった一言。

「好きだぞ、日本。ずっと、ずっと好きだった・・・」



あなたが嫌いだった。
けれど、あなたの言葉に言いようもない幸せを感じている。

今日より明日、明日より明後日・・・私はアメリカさんを好きになっていく。