甘い甘いあなたの言葉
その言葉だけで
とろけてしまいそうになる
放課後、私はいつものようにアーサーさんの寮へと向かう。生徒会のメンバーになってから、彼と過ごす時間が増えた。そして自然に付き合いだし、今に至っている。
「入っていいぞ」
「失礼します」
彼の部屋。もう何回通った事だろう。
「アーサーさん」
「ん?」
彼の名。その名を呼ぶたびに幸せな気持ちになる。
「いえ。なんでもないです…」
「なんだよ…」
不器用に笑う彼。どうして私を選んでくれたのですか?その質問をするたびに、困ったような、でも少し照れたような顔をして何でも良いだろう?と話を逸らすのだ。
「菊、紅茶でいいか?」
「あ、おかまいなく…」
部屋を出て行く彼。しんと静まり返った部屋に私1人だけ…。
どうして、私を選んだのだろう。私は、あの人の人柄と瞳に惹かれた。…いや、最初からあの人のすべてに恋い焦がれていたのかもしれない。
けれど、彼はなぜ私を好いてくれたのか、その理由がわからない。
「あまり聞いてるとしつこいと思われてしまいますね」
気分転換に、広い彼のへやを一周する。たくさんの本。その一つを手に取り、パラパラと捲ってみた。
数ページ本をめくると、本の間から一枚の写真がひらひらと落ちる。
「ん?なんですかね…」
拾い上げ、写真を見て、
「これ…」
それは、1年前の合宿で撮った写真。私とアーサーさんの2人が写っている。自分で見るのも恥ずかしいくらい顔の赤い私。この写真を撮った後だった。
~菊、俺と付き合わないか?~
まさかこのときは告白されるなんて思ってもみなかった事だろう。嬉しくて、夢のようでなかなか寝付けなかった。
「何を見てるんだ?」
不思議そうに部屋に入ってきたアーサーさん。
「すみません!!勝手に…」
「いや、いいんだが…それは?」
「一年前にあなたと撮った写真が挟まっていたんです」
「ここにあったのか…。捜してんだ。…この後だったよな。俺がお前に告白したの」
「ええ。告白された時は本当に驚きました」
「俺が告白しなかったら、他のヤツが告白してたんだ」
え??
「それって…」
「結構モテるんだよ。お前は…」
「ええ?!まさか…私はアーサーさんみたいに顔が整っていませんし、告白された事なんてあなた以外いませんでしたよ」
「俺がストッパーだったんだよ…」
へ…??えええ!!
「お前、他のヤツから告られたら断れなさそうだし、早めに対処しとかないとってさ」
「対処??」
「俺のものにするって事」
「じゃあ、それで?」
「悪いか?」
「悪くはないですけど…」
初めての事実にくらくらする。
「でも、まだ俺のものじゃないんだよな」
「私は、アーサーさんのものですよ?」
告白もされているし、付き合っている。
その言葉にアーサーさんは意地悪そうに微笑む・・・。
「まだ、俺のものじゃないだろ…。だって、一つになってない」
一つって…。
「どういうことですか・・・?」
「教えてあげようか…。俺がお前をどれだけ好きか…」
「は、はい…」
その言葉が最後だった。置かれた紅茶は互いの口に運ばれる事はなく、そのまま手を引かれ、ソファへと組み敷かれた。
「後悔するなよ」
「…後悔なんて」
するはずがない。
それは甘い快楽、甘い痛み…。
とけてしまいそうな言葉をささやかれるたび、意識が飛びそうになる。
そして
一つになっていく・…
「わかったか?俺が菊をどれだけ好きか…」
「はい…嫌というほど」
けだるい空気の中、私は彼にぴったりとくっつたまま眠りについた。
「誰にも渡さない…これからもずっと・…」
甘い甘いあなたの言葉
甘い甘い私の心…
混ざり合って溶けてしまいそうだ。