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あの頃の私は敵わないものなどなかった。そう思い、戦ってきた。

胸の痛みを覚えたのはいつの頃だっただろうか。
男が男を好きになったと勘違いをして、結構悩んだのもその頃。そして、自分が女だと知って自分を男だと勘違いさせた相手をシメようかと思ったのも同じ頃。
甘く苦しいその痛みを恋と知ったのはもう少し先になってから。

女としての自覚を持ち始め、私は恋を知った。
その相手と結婚する事になったのは、恋をしってしばらくしてから・・・。

戦う為に生まれたと言ったあの人を、たくさん傷つけ、罵った。
それでもあの人は、過去の事だからと小さく笑う。
穏やかに流れるピアノの音と、手作りのお菓子。あの人と向き合い笑い合う日がくるなんて、思ってもいなかった事だから・・・。

可愛くなりたくて、褒められたくて、結婚してから随分頑張ったな。掃除、洗濯、お菓子作り・・。

誰かの為に頑張る事なんてなかった。

“あなたは、そのままでいいんですよ”
“駄目です!!もっと、オーストリアさんのお役に立ちたいんです!!”
“ありがとう。ハンガリー”

あなたの言葉は魔法だ。その一言で、私は天にも昇る気持ちになるのだから。
沢山辛いことがあった。それでも、あなたがいたから頑張れたんです。

「ハンガリー」

私だけを見てほしいなんて、贅沢過ぎて言えない。
だから、せめてお茶の時間だけはあなたを独占したと思っていてもいいですか?

「ハンガリー。お茶の時間にしましょう」
「はい。オーストリアさん」

二人きり、この時間だけは・・・。