あいつの事は昔から知ってて、男だと思って接してたら実は女だったわけで。
それからしばらくしてスカートを穿きはじめ、口調が柔らかくなり、女らしくなった。
全部、あいつの影響なんだろうが…。
「よぉ。またお坊ちゃんの子守か?」
街であいつを見かけ、声をかけた。
「プロイセン。あんた何で?!」
相変わらず可愛くない反応しかしねぇ。
「お前も暇だな」
「なっ!!あんたに言われたくないわよ!!」
「うるせぇよ…んで?あの眼鏡はお留守番か?」
「また何かしでかそうとか考えてないでしょうね?」
「お前な…」
何年も前の事を今の今まで引っ張りやがる。まぁ、結構色々やってきたから、恨まれるのも無理はないか。
「まぁいいわ。それで?何の用?」
「別に。お前を見かけたから声をかけただけだ」
「用がないなら話しかけないでよ!!」
「てめぇ、知り合いなんだから別に声ぐらいかけてもいいだろうが!!」
毎回こんな感じだ。
「それにしても、えらくド派手はスカートだな。坊ちゃん好みか?」
それを言った瞬間、思い切り持っていたカバンで殴られた。
「ってぇな!!なにすんだ…」
そう言いかけて、俺はそれ以上の言葉を言うことができなかった。ハンガリーが赤い顔をして涙ぐんでいる。
俺、何かしたか?
そこは殴って怒るとこじゃねぇのかよ…。
「あんたが…あんたがそう言ったから」
「な・・・」
「あんたが!!赤のスカートが似合うって言ったから!!!」
俺は、夢でも見ているのか?
こいつはおれの事を好きというのは、俺の都合のいい妄想でしかないのか?
顔を赤らめてうつむいているのに?
俺が似合うって言ったから、こいつは俺の好みに合わせて着てきたというのに?
「っ!!」
とっさに、ハンガリーの頭を抱えるように抱きしめていた。
「きゃっ!!」
すっぽりと俺の腕に収まったハンガリーは、思っていた以上に華奢で小さく、そして暖かかった。
「なっ!!ちょっ!!何すんのよ!!」
俺だってわかんねぇよ。とっさ過ぎて頭が混乱したまま気がついたら抱きしめていた。
いちばん最初は、自分の為に戦っているような奴だった。相手のことなどお構いなしに突っ込んでいくあいつがえらく男らしいと思った。
だが、それはやがて、オーストリアの為になり、その全てをヤツに合わせた。
俺の入る隙間なんて、あるはずがないと思っていた。
「心臓、早すぎ…」
「てめぇこそ」
「馬鹿じゃないの?」
「お互い様だ」
押し返そうとも、撥ね退けようともしなかった。
ただ、たまに暴言をはきつつも、黙ってお互い体を預けた。
「あと、5秒だからね」
「望む所だ」
5秒…。残り少ない時間を惜しむように、強くハンガリーを抱きしめ、髪に顔を埋めた。
甘く香る髪と、日に映える赤を目に焼き付けて…。