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ラッシュ時に架線切断事故発生。

宇都宮線、高崎線、湘南新宿ライン、京浜東北線運転見合わせ。
尚、新幹線による振り替え輸送を実施しております。

電光掲示板に映し出された事故と振り替え輸送の案内を見ながら、高崎は深い溜息をついた。
「まただ・・・また上官に迷惑を・・・」
「いいじゃない?あの人達暇そうなんだから」
「あのな!!だいたいお前が」
「事故は今に始まった事じゃないでしょ?今回はたまたまラッシュだった。それだけだよ」
「何でこんなに冷静なんだよ・・・逆に怖ぇーよ」
「疲れてるだけだよ。口は良いから手を動かしてくれない?さっきからちっとも進んでいる様子がないんだけど」
「んな事わかってるよ!!」
パラパラと報告書をめくると、高崎はあからさまに嫌な顔をした。
「クレーム報告かよ・・・」
「いいよ。僕がやっておくから」
高崎から報告書を奪い取ると、次々に届くクレームに目を通す。
「これぐらいなら客を怒らせないように最善の手を尽くしてると申し訳なさそうに言えば何とかなるでしょ。間違ってはいないしね」
「お前、クレームに対するあしらい方だけは尊敬に値するよ」
「そりゃどうも」
目線をそらすことなく、次々に仕事をこなしていく。そんな宇都宮を内心高崎は関心した様子で見ていた。
面倒くさいとぼやいているわりには仕事は早く、全てをそつなくこなす。

「振替が上官だと報告書が面倒だね。いちいち詳細を書くのが面倒だよ。次回はニューシャトルに振り替え輸送を頼もうかな」
「55キロの鈍足ワンマンに何を望めと言うんだよ…。どこにも行けねぇし、振替の文字が死んでるだろ」
「冗談を真に受けてくれてありがとう高崎。君は暇つぶしにはホント飽きないねぇ」
「・・・てめぇ」
そう言っている間にも、どんどん報告書が作成されていく。
「お前さ」
「何?」
「何でここで仕事してるんだ?」
「何でって、ここが一番連絡しやすいし動きやすいからね」
大宮駅は確かに動きやすいが、先に来ていたのは高崎だ。それを知っていてなぜと高崎は疑問に思った。
動きやすいのなら、他の駅でもいいのだ。
「京浜東北はどうしてる?」
「あぁ。あっちはてんてこまいみたいだよ。乗客とトラぶったとかで結構混乱してるっぽいね」
「フォローしに行こうにもこっちもどうしようもないしな」
「そうだよ高崎。自分の事も満足にできないのに人の心配なんてしている場合じゃないでしょ?」
「ホントお前宇都宮に帰れよ」
「それより、僕の方は一段落つくけど、そっちは終わりそう?」
「・・・まだ」
「はぁ。・・・その書類貸して」
性格が悪いとは常々思っている高崎だが、皮肉を言いながらも結局助けてもらっている。
「高崎」
「な、何だ?」
「端末から情報が流れたよ。復旧の目途がたったみたいだ」
「軽く5時間はストップしてたんじゃないか?」
「仕方ないよ。架線切断じゃどうしようもない」
「まぁな」
「はい。上官への始末書は自分で書いてね。それじゃあ」
「宇都宮」
「何?」
「ありがとうな。今度お礼する」
「これでいいよ」
ちゅっと音をたてて高崎にキスをする。
「え・・・あ?!」
「僕の事が気になって仕事に集中できないのはわかるけど、事故った時くらいしっかり仕事してよね」
「なっ!!」
「またね。可愛い高崎」
右手をヒラヒラと振り、部屋を出て行ってしまった。残された高崎は宇都宮に渡された書類を手に呆然と立ち尽くしていた。
ふと我に返り、書類を見ると詳細が事細かに書かれてある。
「完璧じゃねぇか」
端末から高崎線復旧の文字。
その文字を確認し、急ぎ早に部屋を後にした。