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気だるい朝はいつもの通りで、カーテンを開けて今日も晴れだと伸びをしながら思うのもいつもの通り。
ただ・・・。

「どうした?有楽町?」
俺のベッドに池袋がいる事。
「今日も晴れたなぁって」

「ああ。トラブルさえなければ、今日も順調に業務ができるな」
「そうだね」
まだ朝日は昇っていない。うっすらと明るい早すぎる朝。
「始発の時間はまだだろう?」
「あと1時間くらいかな?って、今日は俺達休みだろう」
「貴様と違って、私は西武の為に常に考えているのだ」
「そうですか。それはすごい」
「貴様とて、今日は副都心に全てを任せているだろう?それこそ心配ではないのか?」
「東上もだよ。まぁ、何とかなると思うけど、一応何かあったら連絡してって言ってあるし。西武有楽町も張り切って監視をしてくれるって言ってたから、安心はしてるよ」
「全く、西武有楽町まで使うとは…」
「了解をしてくれたのはおまえだろ?」
窓を開けていた所為か、少し肌寒い。窓を閉めて布団にもぐりこむと、池袋がいたおかげかとても温かかった。
「冷えているな」
背中越しに池袋の声が聞こえる。
「風に当りすぎたかな?」
「全く…」
ふわっと何かが覆いかぶさった。それが池袋とすぐに気づいたが、恥ずかしくて池袋の顔をまともに見れない。

池袋は二人だけの時は妙に優しく感じる。行為の後ならなおさらそう思う。そんな事聞いたらきっと不機嫌になるから聞かないけれど、自分だけの特権だと思うと嬉しく感じた。
休みが合う事なんて滅多にない。
たまたま・・・そう池袋には言っているが、結構西武有楽町から情報を聞き出しては、皆が疑問に感じない程度に池袋に休みを合わせていた。
池袋も知ってか知らずか、何も言わずに俺に付き合ってくれる。
「今日はどこかいく?」
「行きたい所でもあるのか?」
「池袋は?」
「私は特にないが・・・」
「俺もね、ないんだ」
「貴様・・・」
「だから、今日はずっとこうしていたい・・・なって」
「有楽町?」
「だめ?池袋?」
「・・・いいだろう」
「うん。ありがとう」
甘えるなんて滅多にできないのなら、これを利用してもいいだろう?
池袋の顔が見えるように体を反転させて、胸元に顔を埋める。それだけで満たされるのだ。
「池袋はすごい…」
「西武は・・・だろう?」
「池袋にしかできない事だよ」
俺をこんなに満たしてくれるのは・・・。
「貴様も西武に来ればいいのだ。そうすれば・・・」
「そうしたら、こうやってお忍びで会う事が出来なくなる。俺、結構楽しんでるんだよ?この関係」
仕事か偶然を装わなければいけない関係。
二人きりなんてそれこそ大変で、タイミングを合わせて誰もいない時間を見計らって部屋に入る。言い訳を何通りも考えて、自然にこなさなくてはならない。そこまでしなければ、疑われ、何を言われるのかわからない。
西武とメトロの関係。
その溝は浅いようで深い。
けれど俺はそれさえも楽しいと思っている。池袋と一緒だから、こんな面倒な関係さえ有意義な時間に感じる。
「全く」
「ずっと・・・この関係がいい。お前が隣にいて、たまにでいいから体を合わせて、甘えられる関係がいい」
素直に口にすれば、意外と恥ずかしくない事に気づく。池袋がどういう顔をしたのかは顔を埋めたままの俺には見えなかったが、心音が早くなったという事は、きっと俺の気持は伝わったのだろう。
抱きしめる腕が強くなったのを感じ、俺はそう確信が持てた。
「大好きだよ、池袋」
摺り寄せるように甘えて、俺は目を閉じた。もう少しこのまま寝てしまってもいいよな?
意識がだんだんと離れていく。
その瞬間、額に何かが当たった。やわらかくて優しいその感触は、俺の良く知っているもの。
「貴様は、言うだけ言って・・・」
耳元で池袋の声がする。
「じゃあ、池袋も言って?・・・大好きって・・・いって・・・」
こんな時だから聞きたいと思った。この先、何回言ってもらえるかわからないから、だから、こんな時くらい聞きたかった。

「す・・きだ・・」
「うん・・・」
何とも池袋らしい途切れ途切れの告白。けど、俺にはその言葉が宝物のようにキラキラと輝いた言葉にさえ思える。
池袋の腕に抱かれながら、俺は、また夢の中へと落ちて行った。
暖かな夢の中へ・・・・。