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一日くらい魔法を使ってもいいじゃないですか?
ほら、減るもんじゃないし。
せっかくの子供のお祭りなんですから…。



さぁ、はじめましょう。








「知ってますかぁ?」
休憩中の西武有楽町を覗き込むようにいきなり登場した副都心に、思わず持っていた水筒のお茶を零しそうになった。
「なっ!!!!何なのだ!?突然!!」
「今日は、何の日でしょう?西武有楽町さんっ」
「はぁ?」
「10月31日ですよ」
「はぁ…」
「本当に知らないんですか?」
「勿体ぶらずにさっさと言え!!」
「うーん」
副都心はしばらく頭を指でくるくるとなぞった後、企んだような笑みを浮かべ、持っていたファイルからノートを取り出し、さらさらと何かを書き始めた。
「何をしているのだ?」
「はいっ」
そのノートを手渡され、中を見ると、良く見知った名が書かれてある。首をかしげ何なんだと副都心を見る西武有楽町に副都心はにこりと笑って見せた。
「スタンプラリーですよ」
「何を…言っているのだ?」
「全部集めたらご褒美がもらえる日です」
「はぁ?」
「ゴールは先輩と池袋さんの所です。全部集まるまで行っちゃだめですよ?」
「いきなり何なんだ?!説明をしろ!!」
「ゴールしたらわかります。午後は西武有楽町さん何もないでしょう?」
確かに、メトロと西武に何かない限り、午後は暇になる。
「西武有楽町さんは“トリックオアトリート!!”って言ってここにサインをしてもらってくださいねっ」
「とり…?何だ?」
「トリック・オア・トリート」
「とりっく・おあ・とりーと?」
「そうです。それ言わないとサイン貰えませんから」
「そうなのか?!」
「はい。全部貰ったら、先輩と池袋さんの所に行ってくださいね」
「…全部貰わないとだめなのか?」
「だめです」
「…わかった」
了解を得て、副都心は満足そうに頷いた。
「じゃあ、最初に名前が書いてある人から順番に行ってくださいね」
「…貴様からじゃないか」
「はい。スタートです」
「と…」
「と?」
「とりっく・おあ・とりーと!!」
「はい。良くできました」
副都心は、ポケットから飴玉を取り出し、西武有楽町の手に乗せ、手早くサインをした。
「何で?飴なんだ?」
「ご褒美です。そういう日なんです。ほらっ、深く考えてないで。回る所は沢山ありますよっ」
副都心に背中を押され、そのまま西武有楽町は走り出した。若干不本意な所もあるが、西武有楽町の心は弾んでいた。

向かうのは、西武秩父。








駅員から西武秩父の居場所を聞き、休憩室へと向かう。
「西武有楽町。珍しいな」
「はぃ!!えっと…あの…」
副都心から貰ったノートを握りしめ、赤くなって俯いてしまった。
「どうした?お腹痛いのか?」
「いえっ!!ちが・・・います」
西武秩父に言って、きょとんとされたらどうしよう。そんな不安でいっぱいになる。勢いでここまで来たが、もしかしたら副都心のいたずらだったのかもしれないのだ。
「おーい?」
でも…。
ぐっとお腹に力を入れて、西武秩父を見る。
「お?どうした?」
「とっ!!!」
「と?」
「とりっく…おあ・とりーと!!!!!!」
思った以上に大きな声が出たので、びっくりして西武有楽町は口を手で押さえた。
「せいぶ・・・ちちぶ?」
恐る恐る見上げると、西武秩父は笑っていた。
「よしっ。ノートを貸してみろ」
西武有楽町からノートを受け取り、自分の名前の下にサインをする。
「あと、これはご褒美な」
綺麗な色のフィルムに包まれた飴を手渡される。
「ありがとうございますっ!!」
「がんばれよ」
「はいっ!!」
嬉しそうに走り出す西武有楽町を見つめ、西武秩父は笑った。






西武拝島、新宿、国分寺と、一通り西武を回った後、JR休憩室へ向かう事と書かれてある。
「何でそんなところ…」
在来線に知り合いはいない。それなのに、どうして…?
疑問を抱えながら、その扉を開けた。

「・・・え?」

目の前にいた人物に、西武有楽町は夢じゃないかと錯覚する。
「わ・・・わあああ!!!」
「ど、どうしたのだ?!ながの?!」
目をキラキラさせて西武有楽町を見つめるのは長野新幹線だった。
以前西武有楽町が迷子になった際、長野と一緒にその寂しさを乗り切った。
もう会う事など叶わないと思っていたのに…。
「スタンプラリーです!!」
「わたしもだ!!」
「一緒ですか?」
「いっしょだ!!」

「「わああ!!」」

手を取り合い、お互い再会を喜んだ。
「呪文の言葉」
「知ってるぞ!!」

「「とりっく・おあ・とりーと」」

そう言いあってまた笑った。
「はいっ、西武有楽町さん」
そう言って、長野は貰った飴を西武有楽町に手渡した。
「うむっ。長野もだ!!」
お返しとばかりに、西武有楽町も飴を長野の手に乗せる。
そして手を繋いで一緒に部屋を出た。
「しかし、同じところをめぐったわけではないだろう?」
「ええ。私は先輩達の所でサインをもらってきました」
「じゃあ、向かう所は違うのか?」
せっかく会えたのに、また離れ離れになるのは寂しすぎる。
「次、どこになってますか?」
「メトロの…銀座と丸ノ内だ」
「同じです!!もしかして、ここからは僕達一緒なのかも」
「そうなのか!?」
「きっとそうですっ。行きましょう」
足取り軽く、メトロ丸ノ内と銀座を目指した。
目指すはメトロ本社。

「来てやったぞ!!」
メトロ会議室をノックし、豪快にその扉をあける。
「おっ!!ちみっこ!!」
「ちみっこ言うな!!」
「いらっしゃい、西武有楽町。久しぶりだね」
「うむ!!」
「君は、長野新幹線だね。話は色々聞いているよ」
西武有楽町の影に隠れている長野を見つけ、銀座は優しく笑った。
「は、はい!!初めまして。銀座さん」
「うん。はじめまして」
「丸ノ内さん。はじめまして…」
「おおっ!!よろしくなっ。長野!!」
くしゃくしゃと頭を撫でられ、長野は小さく笑った。
「銀座、丸ノ内。とりっく・おあ・とりーとだぞ!!」
「そうだ。と…とりっく・おあ・とりーと…」
その言葉に、銀座と丸ノ内は嬉しそうに顔を見合わせ頷いた。
「よしっ!!サインしてやるぞ。ノートを貸してみろ」
丸ノ内はさらさらと大きくサインを書くと、そのノートを銀座に手渡し、銀座も器用にサインを書いた。
「サインがはみ出しているではないか」
「豪快な方がかっこいいだろう?」
「そういう問題ではない!!」
「あのっ、ありがとうございました」
「あと少しだよ。がんばってね」

長野と西武有楽町はまた元気に走り出した。


在来線とメトロを一通り制覇し、気が付くともう日が沈み、暗くなってきた。
「最後ですねっ」
「最後だな」

西武有楽町のノートには“有楽町と西武池袋”
長野のノートには“上越新幹線と東海道新幹線”

しかし、お互い行くところは一緒。

目指すはプリンスホテルの宴会場。



扉の前で長野と西武有楽町は顔を見合わせる。
「ここにいるのか?」
「たぶん…」
「一緒に開こう」
「はいっ」

「「せえのっ!!」」



扉を開くと、まっくらで誰もいないようだった。
「えっ?」
「間違えた…のか?」
二人恐る恐る中に入ると、その扉が勢いよく閉まった。
「なっ、なに?!」
「どうしたのだ?!」
ぎゅっと手を握り、二人は寄り添った。どんな寂しさも乗り越えたその温もりなら怖いものなど何もない。そう確信をして。
「な、なんなのだ?!」

パチンと電気が付き、目の前に居たのは西武池袋と有楽町、そして上越と東海道。
周りには、サインをしてもらった西武、メトロ、在来の姿もある。
「おかえりなさい」
有楽町は優しく二人に声をかけた。
「これで最後だ。良く頑張ったな」
東海道も二人にねぎらいの言葉をかけ、上越もごくろうさまと笑って迎えた。
「ほら、言う事があるだろう?」
池袋の言葉に、二人ははっとして、顔を見合わせ笑った。

「「とりっく・おあ・とりーと!!」」

二人声を合わせ、高らかとその言葉を投げる。


「「ハッピーハロウィン!!」」

パァンと紙吹雪が飛んで、二人を包む。
「はろうぃん?」
「そう。今日はハロウィンだよ」
有楽町が西武有楽町の頭を撫でながら説明をした。
「トリック・オア・トリート…お菓子をくれないと悪戯するぞって言いながら家々をめぐってお菓子を貰う外国のお祭りだよ。仮装したりもするんだよ」
「知らなかったぞ!!」
「だからだ。今年ぐらいは賑やかにやってもいいだろうと提案が出されてな。我々も協力したのだ」
「そうだったんですか…」
「普段、忙しく業務をこなすお前達に、少しでも楽しい思い出をと思って賛成をした。楽しめたか?」
「はいっ!!池袋。とても楽しかったです!!ありがとうございますっ」


「さぁ、サインをするからノートを出して。それが終わったら変装して、お菓子を食べようね」
上越が手を差し出し、ノートを受け取る。
「西武有楽町、我々もだ」
「はいっ」
二人は目をキラキラさせて、コンプリートしたノートを眺め、嬉しそうに笑った。

「こんぷりーとだ」
「うれしいですねっ」

ぎゅっと繋いだ手の暖かさを残して、世界が真っ白になる。

「あれ?」

「おっ?」

真っ白な布が二人を覆った。
「お化けだぞー!!」
山陽が笑いながら二人に布をかぶせたらしい。
「なっ!真っ白ではないか!」
「ははっ!!山陽先輩のいたずらですねっ!!」
二人はいっぱいいっぱい笑った。


まるで魔法にかけられたように…その夜は更けていった。






































「西武有楽町…朝だぞ…」

「ん…池袋?」

「どうした?楽しい夢でも見たのか?」

いつも通りの朝。
夢のような時間…。
夢?

「池袋っ!!昨日お祭り…あれ?お祭り?」
「何を寝ぼけているのだ?」
カレンダーを見ると、31日になっている。
あれは…夢だったのだ。
「…幸せな夢を…見た気がします」
自分は笑ってた。
誰かと、とても会いたかった誰かと…。


「そろそろ朝飯ができる。顔を洗ってこい」
「はいっ!!」
ベッドから降りて、顔を洗いに洗面所に向かう。
その顔はどこか幸せそうだった。















魔法はいつか解けます。
解けたらいつも通り?
さぁ…。




だって今日は、31日ですよ?