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「学園祭の企画書、亜細亜クラス分目を通してくださいね」
その言葉に、アーサーはギクリと肩を揺らした。机に積まれた膨大な書類を目の前にすると、自然とやる気も萎えてくる。
「菊、これいつまでに…」
「できれば明日…」
「ウソだろ!?」
「じゃなくて、来週の会議までにお願いします」
「はぁ…お前良い性格してるよ」
「ふふっ」
菊が嬉しそうに笑うから、アーサーもつられて口元が緩む。
「胃炎は大丈夫か?」
「もうっ!!それはもう治りました。あなたのおかげで無理もしなくなりましたし、今は薬もいりません」
「そっか」

まだ、亜細亜クラスと欧羅巴クラスに大きな溝があった頃の傷をアーサーは心配していた。

「あの頃より…私達前に進んでますよね」
「当たり前だ」
「良かった」
「どうした?」
「時々不安になるんです。だって、こんなに幸せなのって出来すぎてます…。私には勿体ないくらい」
「幸せか?」
「…はい。だから怖い」
不安そうに顔をゆがませる菊とは反対に、アーサーは穏やかに笑っていた。
「お前は、ずっと頑張ってきた。それの褒美を貰った…そう思えばいいだろう?」
優しく抱きしめるその胸に、菊は顔を埋めた。アーサーの付けている香水の香りに安心を覚え、ゆっくりと頷く。
「前に進んでいるさ。これからも、俺はお前と一緒にいたい」
素直に慣れない二人は良く似ていた。それ故に、反発しあい不器用な付き合いしかできなかった。
けれど、今ではもうその壁さえ消え、嘘のようにお互い惹かれ合っている。
こんなにも強く…。
「ありがとうございます」
「何がだ?」

「私を好きになってくれて…。こんなに沢山の幸せをくれて」
「バーカ。それは俺も同じだ」
「ふふっ」
木漏れ日が二人を包む。
それはまるで祝福のように暖かな光で…。