それは、お互いにとって嫌な偶然。
庭園を歩いていた日本を偶然見つけ、声をかけたのはロシアの方だった。
久しぶりの再会。一瞬凍りついた表情をした日本だったが、気づかれまいと、無表情を取り繕う。
ロシアは楽しそうに日本を見つめ、それからゆっくり口を開いた。
「久しぶりだね」
「はい。お久しぶりですね」
お互い乾いた挨拶を交わし、静かな口論が幕を開けた。
「相変わらず、日本の頑なで反抗心の強い所、僕は大嫌いだな」
「奇遇ですね。私も大嫌いですよ。あなたのその傲慢で野心的な考えは」
「僕は皆と仲良くなりたいだけだ」
「私はあなたとだけは仲良くなりたくありませんね」
「君はいつもそうだね。叶わないとわかってなお抵抗をする」
「あなたは危険すぎるんですよ。そんなあなたに私は屈したりしない」
「アメリカ仕込み?その考え」
「嫌な冗談止めてくださいよ。自分流です」
「強情」
「嬉しい褒め言葉ですね!」
銃口が日本の額へと向けられ、それと同時に剣の切っ先がロシアの首元へ押し当てられた。
張り詰めた空気。静まり返った空間に聞こえてくるのは、お互いの息づかいのみ。
「不思議ですね。恐怖を感じません」
「僕もだよ。むしろ楽しくなってきた」
「相変わらず趣味悪いですね。でも、人の悲鳴や苦痛を好むあなたらしいですよ」
「僕の事ちゃんとわかってくれて嬉しいよ。やっぱり君が欲しいな日本」
「どんな断り方がいいですか?あなたが傷つかないように断ってあげますよ」
「ははっ。面白いね…」
「顔、笑ってませんよ」
「おかしいさ。とても…愚か過ぎて笑えるよ」
冷たく微笑んで、ロシアはトリガーにゆっくり手をかける。その行為に日本は苦笑し、ロシアを挑発的に睨んだ。
「なんだ。打つ気なかったんですか?」
「いや。君がその剣を引くより早く射抜ける自身があったからね。それに君も殺気というより威嚇に近いよ」
「威嚇なんて滅相もない。あなたには苦しんで頂きたくて、わざと寸前で止めてあげたんですよ。でも、あなたには無意味だったようですね。残念」
沈黙。一歩でも動けば、動いた主が確実にやられる・・・。その状況下の中で、二人は微動だにせず、じっとお互いを見ていた。
どれくらい経ったのか…遠くで鐘が鳴る。その鐘が鳴り終わった時、ロシアは小さくため息をついた。
「・・・タイムリミットだよ日本」
日本に向けられていた銃口がまっすぐ空へと向けられ、そのまま引き金を引く。乾いた音がこだまし、訝しげにロシアを見ていた日本も、その意味に気づいたのか、そっと日本刀を鞘に収めた。
「会議がなければもっと楽しめたのに。残念」
「私はもうごめんですよ。できるならあなたと関わりあいたくないんです。表向き平和主義で通っているんですから」
「それじゃあ、僕と平和協定でも結ぶ?」
「今更ご冗談を」
「それもそうだね。だって、君はいずれ僕に奪われるんだから」
「そんな事されるくらいなら私は死にますよ」
「死なせないよ。君は…ずっと僕の側に閉じ込めてあげる。可愛がってあげるから安心してね」
「そろそろ時間ですよ。夢見るのもいい加減にしてくださいね。迷惑ですから」
「そういう事にしておくよ。日本…」
お互い別々の方向へとゆっくり歩き出す。
まるで最初から出会ってなかったかのように・・・。
僕への憎しみで君が支配されればいい。
あなたのその結末が絶望であればいい。
その為なら何でもしよう。
さぁ・・・どちらが死ぬ・・・?